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職場のこと

2024.5.14

「自分で体感をしないことには納得ができなかった」元農林水産省 農業土木技術者 スタッフインタビュー

プロフィール:九州大学農学部卒業後、2000年農林水産省に入省。農業土木技術者としてダム・水路等の農業水利施設の整備、農地の大区画化や汎用化など農業のインフラ整備に主に携わり20236月まで勤め上げた。同年7月、有限会社かごしま有機生産組合にジョイン。生産事業部長 兼 経営戦略室長 


Q:転職をした理由は何ですか? 


1つ目の理由は、家族の近くにいて、一緒にいる時間を確保したかったからです。前職では、全国各地域の現場で農家の皆様のお役に立つため、転勤も多かったのですが、子供が大きくなるにつれて、単身赴任を考えなければならない状況にありました。2つ目の理由は、自分で農業を体感しないことには納得ができなかったからです。前職では、現場での農家の皆様とのやり取りの中で課題を把握し、それを政策に活かすことで、全国の農家の皆様のお役に立てることにとても大きなやりがいを感じていましたし、これからも現場に根差した政策をつくっていきたいと思っていましたが、マネジメント側になるにつれて、現場で農家の皆様とのコミュニケーションをとることが難しくなっていきました。私自身実際に農業をしたことがなく、農家の皆様のご苦労やご努力を実感しないまま政策づくりを担っていっても良いのだろうか、本当に現場のためになる政策を作れているのだろうかという葛藤が常に心のどこかにありました。
そこで、実家のある鹿児島に帰省し、もっと農業に近いところで仕事がしたいと思うようになり、2022年1月の新農業人フェアに参加し、かごしま有機生産組合さんのブースで相談させていただいたことが転職のきっかけとなりました。その後、webでの面談や鹿児島に帰省した際にかごしま有機生産組合さんの事務所にお伺いするなどし、家族会議も重ねた上で、20237月に入社させていただきました。入社前から家族の状況も含めて丁寧にお話を聞いていただき、20237月~3月まではリモート中心で仕事をさせてもらい、20243月に鹿児島に転居し、4月1日から鹿児島の本部事務所で勤務させていただいています。



Q:今はどのようなお仕事をしているのですか?


2024年4月に農産事業部長兼経営戦略室長を拝命し、大口・知覧・種子島の3つの直営農場、スマート技術を活用した有機苗の生産、新規就農を考えている方の実習、組合農家さんをサポートをする援農、種子島の南種子町さんと連携協定を結んで行っている有機農業プロジェクトなど、とても幅広い職務を担当させていただいています。例えば有機苗については、苗半作という言葉あるように、良い苗を育てることはとても重要ですが、有機での育苗は農薬が使えないため非常に難しく、流通もしていないことから、各農家さんが自家育苗するしかない状況です。組合でも有機苗の育苗事業を実施していましたが、経験豊富な職員が退職してからは、安定して生産することができない状況となっていました。そこで、スマート農業の技術も活用し、育苗ハウス内の環境を自動的に制御するとともに、データや記録を蓄積し、ノウハウを高めることで、経験がない職員でも品質の良い有機苗を安定的に生産できる体制を構築するプロジェクトを昨年度から実施しています。農家の皆様に品質の良い有機苗を適正な価格で安定的に供給ができるように今後も試行錯誤しながらより良い取組にしていきたいと思います。


Q:もともと有機農業に興味があったのですか? 


有機農業も含めた持続的な農業を広げていかなければ食料の安定供給ができなくなるという課題意識がありました。温暖化が進行し、干ばつや大雨など極端な気象の発生頻度が増え、地球全体の気象が不安定な状況になってきています。また、それに伴って農産物の生産量も不安定になるとともに、資金の流動性が高まっていることから、農産物や資材の価格自体も乱高下している状況にあり、今後もその不確実性とぶれは大きくなっていくと考えています。
このような状況の中では、効率性ばかりを突き詰める経営では立ち行かなくなるのではないか、各地域が安定的に供給できる資源を活用し、美味しくて安全な農作物を安定的に生産し、地域の皆様に買っていただき、食べていただく地域循環型の農業がより重要になってくるのではないかと思っています。
もちろん効率性も重要ですが、今後は安定性・持続性という価値観の方により重きを置いていくべきであると思っています。安定的な価格で美味しい農産物を持続的に供給することが、買っていただく消費者の方にも、生産する農家さんにとってもプラスになるのではないかと思います。また、入社前に組合の「地球畑カフェ」に伺い、有機野菜のランチをいただいたのですが、優しくて深みのある味わいがすごく美味しくて、野菜の美味しさをゆっくりと味わい、感じることができました。美味しくて安心、そして持続的に作れるものこそ、これから必要だと改めて強く感じました。



Q:職場環境はいかがですか? 


入ったばかりの私にここまで任せていただけるのかと思うくらい自由に仕事をさせていただいていますし、実際に私が提案したことをすぐに実行に移させていただいています。例えば、私はデータや記録をしっかりと蓄積して、毎シーズン振り返りを行い、常に改善していくことが必要であると思っていたことから、WEB上で作業記録や生育記録を付けるアプリの導入を提案したところ、すぐに採用いただき、今年度から直営農場と一部の農家さんを対象に試験的に開始しました。いつ播種して、どのような作業を行って、いつ収穫したかという作業記録や、生育ステージ毎の生育記録に加えて、土壌分析の結果や気象条件のデータも併せて見てみることで、収穫量や品質に何が影響を与えたのかということがより細かく分析できるようになるのではないかと考えています。また、農業は1年で数回しか作付けできないので、サンプル数が少ないのですが、組合の生産農家さんにも広げることで、より多くのサンプルデータを集めることができ、色々なことが分かってくるのではないかと思っています。さらに、しっかり記録をつけていくことで、農家さんとしては有機JASの認証や年次調査などの際に、改めて記録を整理する必要がなくなり、事務作業の手間を大きく削減することができますし、農作物を食べていただくお客様や買っていただくお客様にも生育状況や栽培履歴をお伝えすることで、信頼していただき、販路も広げていけるのではないかと考えています。



 Q:仕事のやりがいは何ですか? 


私は、現場に出て農家さんと一緒に農業を進めていきたいと思って入社させていただいたので、とにかく直営農場や農家さんのところに行き、現場で実際に作業をしたり、色々な話をしたりして、一緒に試行錯誤を積み重ねることができることに尽きると思います。場所によっても、年によっても大きく異なる自然状況の中での有機栽培ですので、現場に行かないと分からないことだらけです。そのような中でも農家さんと一緒に現場で色々とお話をさせていただきながら感覚を共有したり、色々な技術的な取組に挑戦してみたりして、少しずつでも良い方向に変えていく試行錯誤を一緒に現場で行い、その結果を分析し、次の作付に向けた改善点を積み上げていきたいと思います。


 Q:今後どういうビジョンを描いていますか? 


まだまだ始まったばかりですが、農産物を生産する農家の皆さん、それを買って食べていただくお客様、その間を繋ぐ組合の職員、その他携わるすべての皆さんが、難しい状況があったとしても、前向きに充実感をもって日々を送れるようにしていきたいと思っています。農家さんにもそれぞれの生活と自分の興味・特性や農地の状況にあった目指す農業があると思いますが、それを実現できるように一緒になってやっていきたいです。高齢化が進む中で、今後も有機農業とその農地を繋いでいくためには、新規就農者の方を増やすことが欠かせませんが、特にご家族のいらっしゃる方などは、経済的な面での見通しがたたなければ決断することができないと思います。それぞれの農家さんが自分の思い描いている農業を実践し、家族の方も含めて幸せを感じながら暮らしていっていただけるためにどのようにしたら良いのか、具体的な経営計画を立てるために必要な基礎的なデータをお示しするするとともに、一緒になって考え、就農してからも継続して一緒に色々な取り組みができればと思います。
一方、農産物を食べていただくお客様には、ゆっくりと味わっていただき、忙しい生活の中でも、束の間のほっとする時間をとっていただけるような美味しい農産物をお届けできればと思っています。また、より美味しさを感じていただくためには、そのお野菜や果物ができるまでの背景にある、生産地の情景や農家さんのご努力を感じていただけることが重要だと考えています。そのため、例えば農作業の体験をしていただいたり、生育状況を映像や写真で共有したりするなどにより、農産物ができるまでプロセスを実際に感じたり、共有させていただくことも進めていきたいと思います。


作る人、繋ぐ人、食べる人、皆が状況や苦労を共有し、お互いを想いあえるような、懐の深い関係を紡いでいきたいと思います。